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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)4210号 判決 1978年9月18日

原告

萩原美智雄

被告

ヤマトタクシー株式会社

ほか一名

主文

一  原告の被告両名に対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

「(一)被告両名は各自、原告に対し金四四万八、〇〇〇円およびこれに対する昭和五二年八月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。(二)訴訟費用は被告両名の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言

二  被告ら

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  事故の発生

昭和五二年一月五日午後一〇時一〇分ころ大阪市北区曾根崎上一丁目二二番地先交差点南側の横断歩道を東から西に向かつて横断歩行中の原告に、北から南に向かつて南行第四車線を進行中の被告亀井藤一運転の普通乗用自動車(大阪五五う三三五一号、以下被告車という。)の左前部が衝突し、原告ははね飛ばされて路上に転倒した。

(二)  被告らの責任

1 被告ヤマトタクシー株式会社(以下被告会社という。)は同会社が営業とするタクシー運送業のために被告車を所有し、本件事故当時その被用者である被告亀井は同会社の業務に従事中後記の過失により右事故を発生させたものであるから、被告会社は被告車につき自賠法三条本文所定の運行供用者であるとともに、民法七一五条の使用者としての損害賠償責任がある。

2 被告亀井は被告車を運転中は、絶えず前方を注視して、歩行者等がいるときは直ちにハンドルまたはブレーキを適切に操作して衝突事故を回避すべき注意義務があるのにもかかわらず、これを怠り、前方注視を十分しなかつた過失により、横断歩行中の原告を見落し、漫然と自車を走行させて本件事故を惹起させたものである。

(三)  原告の被つた損害

1 受傷 右上腕骨大結節頸部骨折

2 治療経過

入院

昭和五二年一月五日、六日の二日間行岡病院に。

通院

同月七日から同年四月二七日まで同病院に(うち実治療日数六六日)。

3 損害額

(1) 治療費 一〇万一、四四〇円

(2) 入院雑費 八〇〇円

一日当り四〇〇円の割合による二日分

(3) 付添看護費 四、〇〇〇円

原告は入院二日間に亘り付添看護を要し、近親者がこれに当つたのでその費用は一日当り二、〇〇〇円が相当なので、合計額は標記の金額となる。

(4) 文書料 六〇〇円

(5) 通院交通費 一万八、四八〇円

一回当り往復運賃二八〇円の六六回分

(6) 精密検査費 一〇万円

一回の検査料二万五、〇〇〇円の四回分

(7) 休業損害 四、二〇〇円

(8) 慰藉料 四七万六、〇〇〇円

(9) 破損しためがね代 四万八、〇〇〇円

(10) 弁護士費用 一〇万円

以上合計 八五万三、五二〇円

(四)  損害の填補

原告は右損害のうち治療費の一部六、七二〇円、入院雑費、付添看護費、文書料、通院交通費、休業損害の各全部、慰藉料の一部二七万六、〇〇〇円合計三一万〇、八〇〇円を自賠責保険から支払を受け、同額の損害は填補された。

(五)  よつて残損害額は五四万二、七二〇円となるが、原告は被告両名に対し連帯して内金四四万八、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五二年八月一三日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの答弁

請求原因(一)は認める。同(二)の1のうち被告亀井に被告車運転上の過失があること、被告会社に民法七一五条所定の使用者責任があることは否認するが、その余は認める、2は否認。同(三)の1、2は不知、3のうち(6)、(9)は否認するが、その余は不知。同(四)は認める。同(五)は争う。

三  被告らの抗弁

(一)  本件事故は、対面の赤信号を無視して交差点内に飛び出した原告の一方的な過失により発生したもので、対面の青信号に従つて交差点に進入・通過しようとした被告亀井にはなんら被告車運転上の過失はないので、同被告に損害賠償責任がないことは勿論、被告会社にも自賠法三条但書の免責事由があるので、原告に対する損害賠償債務はない。

(二)  仮に、被告亀井に本件事故発生の原因となつた過失があるとしても、原告にもそれに寄与した重大な過失があるので、被告らの賠償額の算定に当りそれを考慮して応分の過失相殺がなされるべきであり、かつ、原告が自認しているとおり自賠責保険金が原告に対し相当額支払われているので、それを控除すると被告らの未払額は残存していない。

四  被告らの抗弁に対する原告の答弁

前記抗弁(一)、(二)は否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  同(二)の1のうち、被告会社が本件事故当時被告車を所有し、その被用者である被告亀井がタクシー運転手として被告会社の業務に従事中右事故を発生させたものであり、同会社が自賠法三条本文所定の運行供用者であることは当事者間に争いがないが、被告会社は同条但書の免責事由を主張し、被告亀井も同(二)の2の同被告に過失があつた旨の主張を争い、合わせて予備的に被告らは過失相殺の主張をするので、まず、本件事故の発生状況について検討する。

(一)  前記の当事者間に争いがない事実に、成立に争いがない甲第四号証の一、二および原告(一部)および被告亀井藤一各本人尋問の結果を総合すれば次の事実を認めることができ、原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比してたやすく措信することができない。

1  本件事故現場は中央分離帯を挾んで片側車道幅員約一三メートル、四車線ずつの南北に通ずるアスフアルト舗装の道路と幅員約七・三メートルの東西に通ずる道路とがほぼ直角に交差する信号機によつて交通整理が行われている交差点のすぐ南側に南北道路を横切つて設置されている幅員約四メートルの横断歩道上の南端部分であり、同所付近は公安委員会により最高速度が四〇キロメートル毎時に制限されており、南北道路の車両の通行量は夜間でもかなり頻繁であること。

2  被告亀井は被告車を運転して南北道路の南行四車線目を北から南に向かつて進行し、本件交差点を直進通過しようとしたが対面信号に従つてその手前の停止線で先頭車として一旦停車し、信号が青色に変つたが、同交差点は北行の対面信号が先に青色に変り同道路から東西道路への右折車があるためそれを待つて、自車の左側に停車していた車両にやや遅れて発進し、約二〇キロメートル毎時の速度で約一四・六メートル進み交差点やや南側に至つたところで、左側の進行車両が本件横断歩道の手前で停車し、その前方、自車の左前方約七・三五メートルあたりに原告が同歩道上南端寄りを東から西に向かつて歩行しているのを認めてただちに急制動の措置を採つたが及ばず約六・八メートル直進して、同様に約一・八メートルまつすぐ歩行して来た原告に被告車の左前部が衝突し、原告は約二・八メートル南方にはね飛ばされて路上に転倒したこと。

3  他方、原告は当日夕刻からスナツク三軒位を回つて酒七、八合を飲み、酔つて本件横断歩道を東から西に向かつて渡ろうとしたが、その直前対面信号が赤色を表示しているのを確認したが、南行車両の対面信号も赤色であり、同車両は交差点北側に停車していたので、同歩道上に対する対面信号が先に青色に変るものと軽信し同歩道に出て歩き始めたところ、同歩道上に出た直後位に南行車両の対面信号が青色に変つたこと。

4  本件交差点北側の停止線から横断歩道に対する見通しを遮ぎるものは何もないこと。

(二)  そうだとすると、本件事故の発生の原因は対面信号が赤色を表示しているのを無視して横断歩道上に出て歩行し始めた原告の不注意に基因していることは明らかであるが、被告亀井にも被告車発進の際には、原告がわずかの距離ではあるが、既に横断歩道上に出て歩行し始めているのを二十数メートル左前方に容易に発見しえたはずであるのに、自車の対面信号が青色に変つたのに気を許し、前記の右折車のみに注意を奪われて、左前方の確認が十分でなかつた落度があり、かつ、本件事故現場は飲食店等の多い大阪市内の繁華街内の道路であるので夜間酒に酔つた歩行者も横断歩行することが予想されるので、自動車運転者としては、単に自車の対面信号が青色を表示していることだけで交通の安全を信頼するのは十分でなく、前方注視を厳にして横断歩道上の歩行者の有無を確認し、もし歩行者がある場合にはその通過を待つて進行すべき注意義務があるといわざるをえない。したがつて、被告亀井には右注意義務を怠つた過失があり、右過失も本件事故発生の原因になつているといわざるをえない。してみると原告と同被告の過失が競合して右事故が発生したものといえ、その寄与した割合は原告の過失を七とすれば同被告のそれは三とみるのが相当である。

(三)  したがつて、その余の判断をするまでもなく、被告会社は自賠法三条本文により、被告亀井は民法七〇九条によりそれぞれ原告に対し同人が右事故により被つた損害を賠償すべき債務があるということができ、右各債務は不真正連帯債務であるといえる。

三  そこで、原告が右事故により被つた損害について検討する。

(一)  原告本人尋問の結果により成立を認めうる甲第二号証および右尋問の結果によれば請求原因(三)の1、2(ただし、行岡病院の通院の実治療日数は六三日)の事実を認めることができる。

(二)  右事実を前提にして損害額の明細についてみてみる。

1  治療費

原告は成立に争いがない甲第五号証の一ないし五に記載の数額を根拠に原告の治療に要した費用は一〇万一、四四〇円である旨主張するが、原告本人尋問の結果によれば、原告の治療費の大半は同人加入の健康保険により支払われており、同人が支払つた金額は初診料、差額ベツト代等のみであることが認められ、右金額は弁論の全趣旨によれば六、七二〇円であることが認められるので、同額のみが原告の損害といえる。

2  入院雑費

経験則上、原告は入院一日当り七〇〇円の雑費を要したと認められるのでその二日分は一、四〇〇円となる。

3  付添看護費

弁論の全趣旨により原告の入院中その近親者が付添看護したと認められ、経験則上、その費用は一日当り二、五〇〇円が相当と認められるので、その二日分は五、〇〇〇円となる、

4  文書料

弁論の全趣旨によれば、原告は文書料六〇〇円を負担したことが認められる。

5  通院交通費

原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば原告は行岡病院の通院交通費に一万八、四八〇円を支弁したことが認められる。

6  精神検査費

原告本人尋問の結果によれば、原告の後遺症は右手が後に回らない運動制限がある程度で、受傷自体にも頭部外傷等は認められず、現在まで頭痛、頭重、めまい等の頭脳部の器質または機能の異常を徴憑する症状は顕現していないと認められ、かつ、今後精密検査を必要とする旨の医師等の診断も皆無であるので、その余の判断をするまでもなく標記の費用はこれを損害として肯認するのに十分でない。

7  休業損害

原告本人尋問の結果によれば、原告は事故発生日の翌日は有給休暇を請求して勤務先(長瀬産業株式会社)を休み、その後は午前中病院に通院し、午後から会社に出勤し勤務したが、給料の減額はなかつたことが認められるので、休業損害はこれを肯認するのに十分でない。

8  慰藉料

本件事故の態様、原告の受傷、治療経過その他諸般の事情をしん酌すると原告が右事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は四〇万円が相当であると認められる。

9  破損しためがね代

原告本人尋問の結果によれば、本件事故により原告が着用していためがねが破損して使用不能になり、そのめがねは事故発生日から六ケ月位前に三万九、〇〇〇円で購入使用していたことが認められるので、経験則上、めがねの事故当時の時価は三万円と認めるのが相当であるので、同額が原告の損害となる。

四  以上合計すると原告の損害額は四六万二、二〇〇円となるので、前記二の(二)に説示の原告と被告亀井双方の過失割合等をしん酌して過失相殺し、右同額から七〇%を減じた一三万八、六六〇円が原告の被告両名に対する損害賠償債権額となる。しかし、本件事故につき原告が自賠責保険金三一万〇、八〇〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがないので、原告の被告両名に対する前記債権は弁済により全部消滅していることになる。したがつて、原告の弁護士費用の請求も理由がない。

五  以上の次第で、原告の被告両名に対する請求はいずれも理由がないので、これを全部失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡安夫)

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